同人音声聞き比べ

ボイスドラマ・ASMR作品をひたすらレビューする

キャンプ経験者はより楽しめる 秋のキャンプ場で出会った、まだ誰かのものな君 ―松崎静香―

タイトル:秋のキャンプ場で出会った、まだ誰かのものな君 ―松崎静香―

 製作者:lithium

     CV:夏峰いろは

  価格:1100円

 公開日:2020年12月11日

作品時間:1時間52分

 

 【作品の概要】

 趣味だったキャンプも仕事に忙殺され擦り切れる日々。そんなある日ついに都合がつきいつものなじみのキャンプ場にくると、そこにいたのはいつも受付をしてくれるおばあちゃんでなく若く綺麗な女性だった。入院した祖母のかわりに仕事をしている孫とわかり、いつも祖母に聞かされていた男性ということもあり互いに興味を惹かれそんなていく。そして彼女とキャンプをする中で互いが抱えているものを打ち明けていく。

  

 今回は「社会人のキャンプ」をテーマにしたボイスドラマ作品。今回のサークルはASMRとボイスドラマを足したような形式の空間の音声を切り取ることを意識した音声VRとして売られています。水のせせらぎや草木が風でなびく音、焚火の燃える音などとして使われる音が収録されていますがそれらを強く強調したものにしておらず、あくまでその空間の中にある音の一つとして、作品の空気を作る装置の一つとして機能しています。 

 メインはあくまでボイスドラマであるためそのような環境音を癒しとして求めると肩透かしをくらうかもしれません。ただボイスドラマとしてはキャンプというテーマを活かしており、ただ癒すというだけでない魅力があります。

 

【キャラクターの評価】

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引用:【20%OFF】秋のキャンプ場で出会った、まだ誰かのものな君 ―松崎静香― [lithium] | DLsite 同人

 

 ヒロインの松崎は学生時代に登山部でアウトドア経験者ですが、山小屋で過ごす登山プランを組んでいたため、テントを張ったり火を炊いたりという経験がない部分的初心者となっています。このためアウトドア自体は好きで他にお客さんがいないため主人公の松山のもとに来て、初めてのテント張りや火起こしを体験します。そのなかで最初はお客さんとオーナーとして接していますが、もともと祖母から主人公である松山の話を聞かされ好意的に感じていたため、徐々に距離感も近くなりフランクな話し方になっていきます。

 序盤は妙なフランクさとリアクションのハイテンションぶりにほんとに年上の社会人先輩なのかと不安になりますが、後半のTrack7:焚き火、告白でその点が回収されます。このトラックでは焚火あるあるの色々と愚痴や語りたくなる空気できるというのがこの作品でも発生しており、焚火の音が鳴るなかで互いの境遇と抱えている悩みをぽつりぽつりと打ち明けていきます。そこで松山への悩みに対しちゃんと経験者として回答をするため、きちんと年上で先輩な部分が活かされています。

 既婚者であるということで安易な恋愛展開にならず、かといって何もなく終わるというわけでもない何とも言えない空気感を生み出しています。

 

【ストーリー・内容の評価】

 ボイスドラマの弱点として主人公側のセリフがないため、会話においてそこをどうやって補うかが作品のテンポやヒロインの魅力に繋がります。この作品では環境音とヒロインの火起こし・テント張り経験がないという部分的キャンプ初心者で補っています。

 テント張りをしているパートでは布が擦れる音と、アクションの間に松崎がリアクションを取る形でしゃべる形となっています。もしこれが完全初心者だと説明口調のセリフが多くなりすぎ聞いていてくどくなってしまい、かといって経験者だと状況に対するセリフがなくなるため、セリフが減りすぎ間が多くなり、何をしているのかもわからなくなってしまいます。これが完全ASMR特化作品ならそれでも成り立ちますが、今回の作品はあくまで環境音は空間を構成する要素の一つ。セリフでもちゃんと状況を説明しなければならないため、説明のバランスをとるためにアウトドア経験者で部分的に初心者という設定となっています。

 ただ状況の細かな説明がないため、キャンプ経験者じゃないと今作業のどの段階なのかわからないところもあります。

 ストーリーについてですが、序盤は和気あいあいとした空気で進んでいきますが、焚火パートから互いの抱えているものをぽつりぽつりと語っていき、作品の空気も重くなっていきます。間も多くなっていきますがその間に焚火の音が入ることでより空しさを強調しています。

 互いの悩みも社会人を経験している身からすれば同調できるものが多く、松崎も社会人経験者として変に希望を持たせるようなアドバイスをせず、彼女の抱えている悩みも簡単に解決できるものではないものの、松山に対して悩みを言葉にできたことで一歩先に進む決意ができ、主人公と出会ったことでヒロインにもちゃんと変化が出ているため暗いだけで終わらないところも聞き終わった後にすっきりできる感覚がありました。

 互いの距離感という点でも初めて会うが共通の知り合いによって互いの情報を知っているという設定により初対面でも距離の詰まり方に早さがあっても違和感がないようになっており、キャラクターへの設定がきちんと生かされているなと感じました。

 

【最終評価】

 キャンプのなかでそれぞれが抱えている悩みに対し一歩前に進むまでを描いた作品。ASMRとしての要素を求めると物足りないかもしれませんが、キャンプという一つの流れをまるごと音声にしている分、様々な音で構成されていて世界観が広がっており、ボイスドラマとしてボリュームが増しています。

 キャンプ経験者なら前半部分もより楽しめると思うので、そうであればA評価となります。ただ未経験となるとフェザースティックの作り方やメタルマッチとはなんなのかを知っていないと説明もなくなんの音なのかわからないため、予備知識をいれる前準備が必要です。このためキャンプ未経験じゃだと前半が分からない音が多いため、B評価となります。